2024年6月、「携帯談話の契約にはマイナンバーカードが必須になる」という報道が多数流れました。
「携帯契約の本人確認、マイナンバーカードの読み取り義務化へ 「非対面の契約」ではマイナカードに一本化」 | TBS
携帯契約に“マイナンバーカード読み取り義務化”で波紋「強制で作らされるのと同じ」「任意じゃないの?」 | 女性自身
携帯電話の契約、本当にマイナンバーカードが義務になるの?
実際のところ、どうなるのでしょうか?
・携帯電話の契約に、マイナンバーカードが義務になるのか?
・マイナンバーカードのほかにどんな身分証が引き続き使えるのか?
・この措置はいつから開始されるのか?
実際のところは、このようになります。
原則として
携帯電話の契約には、ICチップ付き身分証が必要となります。
免許証、在留カードもICチップ付き身分証として使用できます。
それ以外の本人確認の方法も、やむを得ない場合の例外という扱いではありますが、残ります。
ただし、使える書類の種類や、提出方法などが変わります。
以下、もうすこし詳しくみていきます。
店頭(対面)での携帯電話の契約はどうなる?
まず、店頭での携帯電話の契約はどうなるでしょうか?
店頭(対面)での携帯電話の契約
原則として、ICチップ付き身分証を必須とする、
という方向性が決定されています。
店頭でのICチップ読取確認が義務化されます。
・この措置の開始時期はまだ決まっていません。
・ICチップ以外の方法も例外として存続しますが、詳細はまだ決まっていません。
ICチップ付き身分証とは
ICチップ付き身分証とは、次の3種類です。
・マイナンバーカード
・運転免許証
・在留カード
※パスポートはICチップが付いていますが、2020年2月4日以降に発給申請されたパスポートは所持人記入欄(住所欄)が廃止されたため、契約時の本人確認書類としては利用できなくなりました
ICチップ付き身分証が用意できない場合
ICチップ付き身分証が用意できない場合についても、「例外的に、代替手段として、非電子的な確認方法を認める」方向で検討が進められています。
内容はまだはっきり決まっていません。ただ、ICチップ付き身分証を用意できないという理由で、契約を拒むことは、法律上ゆるされないという解釈のようです。
電気通信事業法
(提供義務)
第百二十一条 認定電気通信事業者は、正当な理由がなければ、認定電気通信事業に係る電気通信役務の提供を拒んではならない。
対面契約でのICチップ確認義務化、時期はまだ決まっていません
この措置がいつから実施されるか、現時点ではまだはっきり決まっていません。
- 携帯電話会社側の読み取り装置などの準備
- 原則としてICチップ読取を義務化することについての周知と理解
- ICチップ付き身分証が用意できない場合の例外措置をどうするか
といった点の検討に、まだ時間がかかると考えられます。
「不適正利用対策に関するワーキンググループ報告書」では、「令和7年度以降に、十分な準備期間を確保したうえで施行」となっています。
オンライン(非対面)での携帯電話の契約はどうなる?
オンライン(非対面)での携帯電話の契約
ICチップ付き身分証がないと、その場で申し込みを完了できなくなります。
その際、ICチップの読み取りが必須になります。
ICチップ付き身分証とは、次の3種類です。
・マイナンバーカード
・運転免許証
・在留カード
ICチップ付き身分証がない場合も申し込みはできますが
・身分証の写真を撮る方式は廃止されます。
・書類で本人確認する場合、偽造・改ざん対策が施された書類のみが使用可能になります。例えば「住民票の写し」はコピーではだめで、原本の送付が必須になります。
非対面の携帯契約 本人確認の厳格化は2026年4月1日から
オンライン(非対面)での契約については、先に2026年4月1日から厳格化されます。
携帯音声通信事業者による契約者等の本人確認等及び携帯音声通信役務の不正な利用の防止に関する法律施行規則が作られ、意見募集が終了しています。
2026年4月1日施行、ただし9月30日まで経過措置、となります。
まとめ: 「マイナンバーカードに一本化」にはなりません
というわけで、一番最初の「デジタル社会の実現に向けた重点計画」で、
「マイナンバーカードに一本化する」「ICチップの読み取りを義務化する」
と大々的にぶち上げた割には、
その他のさまざまな方法もしっかり残される内容となっています。
これには、次のような要因があると考えられます。
- ほんらい義務ではないマイナンバーカードが、実質的に義務化されていくことへの、国民の反発に配慮している
- 電気通信事業法121条の「提供義務」との関係で、「ICチップ付き身分証を持っていない人は契約をお断りする」と言い切ることは「できない」と解釈されている
- 携帯電話会社は、大手から小規模まで様々な会社があり、あまり厳密で狭い規定にすると、対応できない業者が出る
しかし一方、免許証を持っていない方は、写真付き身分証としてマイナンバーカードしかない方も多いと思います。
携帯電話の契約において、ただちに、マイナンバーカードが絶対の義務になるわけではありませんが、「マイナンバーカードがあればすぐ終わる」といった場面が、だんだん増えてくるかもしれません。
付録:資料編
本記事を書くにあたって、確認した公的文書や法律などをまとめてご紹介します。
「国民を詐欺から守るための総合対策」
2024年6月18日閣議決定「国民を詐欺から守るための総合対策」
フィッシング詐欺や投資詐欺などの頻発をうけて、政府がまとめた対策です。
この中で、「犯罪者のツールを奪う対策」として、携帯電話契約時の本人確認方法が取り上げられました。

「デジタル社会の実現に向けた重点計画」
2024年6月21日閣議決定「デジタル社会の実現に向けた重点計画」
「非対面本人確認方法はマイナンバーカードに一本化する」と大々的に打ち出した文書です。

「ICTサービスの利用環境の整備に関する研究会」
総務省
ICTサービスの利用環境の整備に関する研究会
この中の、特に「不適正利用対策に関するワーキンググループ」の会議で、携帯電話契約時の本人確認をどうするか、議論されてきた経緯を見ることができます。
総務省
不適正利用対策に関する ワーキンググループ報告書
(PDF 5.77MB)
その案に対するパブリックコメントの結果
本人確認方法を「どう変える」「いつから実施する」を詳しく検討した部会の、最終報告書です。
どの方法を残し、どの方法を廃止するべきか、といったことが報告されています。
実施時期については、「令和7年度以降」としか書かれていません。




NTTドコモから、電気通信事業法121条違反にならないか懸念の意見があったことに対し、総務省は、非対面における本人確認でも、ICチップ付き身分証以外を利用できる方法を存置する予定である旨回答している。
携帯電話不正利用防止法 施行規則(2026年4月施行)
携帯音声通信事業者による契約者等の本人確認等及び携帯音声通信役務の不正な利用の防止に関する法律施行規則
略して「携帯法」などといわれる法律の、施行規則です。
改正されたものが2026年4月に施行されます。
第三条 本人確認の方法
第五条 本人確認書類
が、特に注目です。
その案に対するパブリックコメントの募集と、結果発表


身分証のICチップの読み取り方法について
今後さまざまな場面で必要となる、身分証のICチップの読み取り方法についてまとめます。
ICチップの読み取りは、実は、3種類に大きく分けられます。同じように見えますが、全部違うものです。
- 暗証番号がいらないタイプの読み取り
(マイナカード・在留カード) - 暗証番号が必要なタイプの読み取り
(マイナカード・運転免許証) - 公的個人認証
(マイナカード)
暗証番号がいらないタイプのICチップ読み取り
マイナンバーカード、在留カードがもっている、そのカードが本物かどうかを確認するためだけの読み取り方法です。
カードの表面に書かれている情報だけをもとに、ICチップにアクセスし、出てきた情報がカードに書かれた情報と一致するかを確認すると、そのカードが偽造ではないことを証明できます。
読み取りには次のアプリを使用します。

この読み取り方法では、カードの表面を見ればわかる情報以外は何も読み取れず、また、画像として取得されるため、情報の二次利用がしにくいという特徴があります。個人情報の流出や意図せぬ変更がなく、安心して使えます。
暗証番号が必要なタイプのICチップ読み取り
この読み取り方法は、マイナンバーカード、運転免許証が対応しています。
マイナンバーカードの場合「券面事項入力補助AP」という機能を利用するやり方です。
スマホにマイナンバーカードをかざして「4ケタの暗証番号を入力してください」になるケースは、ほとんどこの読み取り方法です。
読み取り方法は公開されているため、民間事業者からもいくつか読み取りアプリが出ています。例えばこちらのアプリは、マイナカード・運転免許証の両方に対応しています。
暗証番号なしの読み取り方法に比べると、文字データとして情報が読み取られるため、氏名・住所・生年月日・性別の「基本4情報」にくわえ、マイナンバーそのものも読み取られます。
また、運転免許証の場合は、4ケタの暗証番号が2つ必要になりますのでご注意ください。免許証の交付時に、2つの暗証番号を決めるよう求められますが、きちんと覚えたり、メモしたりしてありますか?

公的個人認証(JPKI)
この方法も、暗証番号を使用します。マイナンバーカードだけが対応しています。
この方法では、ただ氏名・住所などの情報だけでなく、「いまカードを読み取った人は、日本の住民票に登録された、特定のこの人に間違いありません」という証明が得られます。
マイナンバーカードのICチップの中には「電子証明書」が保存されており、ここに暗証番号を入力することにより、地方公共団体情報システム機構(J-LIS)に保管された電子鍵と照合され、「間違いなく本人である」という証明ができるようになっています。
デジタル庁の「デジタル認証アプリ」は、公的個人認証を民間企業も使えるようにするアプリです。

マイナカード、4ケタの暗証番号と、長いパスワードの違い
マイナンバーカードには、4ケタの暗証番号と、長いパスワードの両方を登録していると思います。
両方とも、公的個人認証で用いられるものですが、長い方のパスワードを「署名用電子証明書のパスワード」とよびます。
署名用電子証明書のパスワードを使うと、本人である証明だけでなく、ある電子的な書類(ファイル)に対して、間違いなく本人が作成したものである、という強い証明を与えることができます。
「実印を押すのと同じ意味」といえば、その重さが伝わるでしょうか。
そこで、この署名用電子証明書は、申し込みなどの場面で、申し込みデータに署名する目的でよく使われます。
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