- 9月13日 デジタル大臣がCOCOAの機能停止を表明
- 「COCOA停止」の理由は、COCOAの不具合ではない
- HER-SYS稼働開始~COCOA公開~2021年初頭まで
- 2021年4月「HER-SYS本格稼働」~My HER-SYS普及まで
- 2022年オミクロン株 第6波、破綻をつきつけられるHER-SYS
- 2022年7月「第7波」 「全数把握中止」が決定的に
- 全数HER-SYS入力の中止により、COCOAの終了がアナウンスされる
- 「HER-SYS全数把握中止」は、実はただの「デジタル敗戦」ではないのか
- さようなら「COCOA」 新型コロナ”デジタル敗戦”の墓標がここに
- COCOAはどういうアプリだったか【仕組みの解説】
9月13日 デジタル大臣がCOCOAの機能停止を表明
河野太郎デジタル相は13日の記者会見で、新型コロナウイルス感染者の全数把握簡略化を受けて、感染者との接触を通知する国のアプリ「COCOA(ココア)」は機能停止になると表明したそうです。
COCOAは、新型コロナウイルス感染者等情報把握・管理支援システム(HER-SYS)と連動していましたので、HER-SYSに全数の入力がされなくなると同時に、COCOAは機能不全になると予想されていました。
結局、完全に止めることにしたそうです。
河野氏は「ココアはスタート時からいろいろなボタンの掛け違いがあったと認識している」と述べ、失敗点も含めて総括し、感染症のパンデミック(世界的な大流行)が起きた際の教訓にする方針を示した。
毎日新聞記事より
現在まだ、新型コロナのパンデミック真っ最中なんですが、もはや「ボタンの掛け違いは直せない」として、「次からなおそう」と決断したようです。
新型コロナ「デジタル敗戦」の軌跡をたどる
本記事は、COCOAの機能説明や、現状のご紹介記事だったのですが、今回のCOCOA機能停止表明をうけ、HER-SYSを含む日本のコロナ対策「デジタル敗戦」の軌跡を記録する記事として、リライトしました。
COCOAのアンインストール方法についての誤った報道について
“COCOAは、最新版にアップデートして、アンケート回答画面を表示してからアンインストールしないと、通信料やバッテリー消費などの負担が続く可能性がある”
という誤った報道が多数流れているようです。
アンインストールだけでは、バックグラウンドの接触通知システムが動き続けるケースは実際にありますが、旧バージョンのままでも、またアンインストール後でも、停止する手順は用意されています。
こちらは別記事にまとめました。(2022.11.20追記)
続きを読む: さようなら「COCOA」 新型コロナ”デジタル敗戦”の墓標がここに まもなく機能停止「COCOA停止」の理由は、COCOAの不具合ではない
COCOAが停止する理由は、COCOAの不具合ではない、ということをご存じでしょうか。
下の記事のように紹介されると、まるでCOCOAに不具合があったから止めるみたいですよね。でも、ちがうのです。
しかし、運用開始直後から陽性者と接触しても通知が正確に受けられないなどの不具合が相次いだ。河野氏は「ココアはスタート時からいろいろなボタンの掛け違いがあったと認識している」と述べ、失敗点も含めて総括し、感染症のパンデミック(世界的な大流行)が起きた際の教訓にする方針を示した。
毎日新聞記事より
COCOAの陽性登録には、新型コロナウイルス感染者等情報把握・管理支援システム(HER-SYS)から発行された処理番号が必要です。
今回、このHER-SYSに患者情報を全件登録するのをやめたことから、COCOAも停止することになった、というのが真相です。
接触確認「COCOA」終了へ 感染者全数把握見直しに伴い
新型コロナ感染者情報を管理するシステム「HER-SYS」の運用見直しに伴い、同システムを基盤としているCOCOAも機能を停止する。開発に携わっている有山圭二さんは、GitHubで「以後、COCOAの機能停止版の検討および開発を行う」と表明している。有山さんが8月に示した機能停止時の方針案によると「COCOAをアップデートし『サービスを停止しました』と表示する」という。アプリは残し、接触確認に関わる機能を停止するとしているが、残す機能などについては厚生労働省やデジタル庁などで調整していく。
ITMedia記事より
ですので、なぜCOCOAが停止することになったのか、を考えるにあたっては
なぜHER-SYSの全数入力が中止されたのか、を考えることが重要になるのです。
長い物語になりますが、Webニュース記事などのソースをできるだけ集めて、大きな歴史を追ってみたいと思います。
HER-SYS稼働開始~COCOA公開~2021年初頭まで
HER-SYSのはじまりは2020年5月
新型コロナウイルス感染者等情報把握・管理支援システム(HER-SYS)は、新型コロナ第一波の直後、2020年5月にスタート。
新システム稼働により…保健所などの医療現場が新システムに入力した情報は、匿名化されたうえで都道府県や厚労省に瞬時に共有されて集計結果を出力できる…厚労省は全ての関係機関に新システムを行き渡らせ、感染者数や検査数、陽性率などの集計を全国と都道府県別ともに新システムに移行させる方針だ。
現場の負担軽減、感染状況の集計自動化に加えて、新システムにはもう1つ重要な機能を実装する。軽症者や濃厚接触者を含めた全ての患者について、1人ごとに検査結果や症状の経過を継続的に記録し、医療関係者で共有する機能である。軽症者のフォローや重症化した場合の入院先の調整など、患者の命を守る医療の連携体制を構築し、これをシステムで支援する狙いだ。
新型コロナの感染拡大局面で、日本の医療現場では重症化した患者の入院調整が難航したり、自宅療養中に容体が急変した軽症者が放置されたりするなど、患者情報がうまく共有できないことによる弊害が生じていた。新型コロナでは第2波、第3波の感染拡大も予測されている。これまでの反省材料を新システムに反映できるか、政府のIT活用力が問われている。
日経クロステック記事
ちなみに、HER-SYS(ハーシス)と同時に
医療機関等情報支援システムG-MIS(ジーミス)も
稼働しましたが、
そのときの厚生労働副大臣と厚生労働政務次官は
橋下岳(ハシモトガク)氏と、
自見英子氏(ジミエイコ)氏でした。
なかなか導入が進まず…
当初は、各地の自治体でなかなか導入が進みませんでした。
2020年9月「項目が多すぎる問題」を修正
導入されて2ヶ月もたたない2020年8月にはすでに、さまざまな問題が表面化してきていました。
9月になり、入力項目を「当初の約三分の一の40項目に絞る」ことになったようです。
ハーシスはネシッドより感染者の経過など入力項目が多い。入力欄は最大120~130項目にのぼる。関東地方のある保健所の担当者はこぼす。「ハーシスは国がデータを吸い取るための便利グッズでしかない。保健所の業務量は増えるだけだ」。こうした不満の声を踏まえ、厚労省は今月、項目に優先順位をつける方針を示した。発生届に書く情報や、現在の患者の状態など最優先に入力する項目を40程度に絞る。
感染データ共有システム広がらず 保健所「逆に負担増」 朝日新聞 2020/9/21
感染増加で逼迫する、医療機関や保健所に「120~130項目」を手入力させて「即時集計のメリット」というのは、さすがにちょっと感覚的に理解できません。
削減して一人40項目だとしても、100人分で4000個の入力欄を手打ちすることになります。
「システムと現実の境目」が最も重要で、ここを自動化せず「入力を義務付ける」だけでは、まともなデータ処理はできないのです。
2020年6月、COCOAリリース
HER-SYSがなかなか普及しない中、6月19日にCOCOAがリリースされます。
リリース直後からいきなり評判悪く…
しかし
- 任意の番号で陽性登録できてしまう不具合
- HER-SYSそのものの普及が進まず陽性登録が遅延
- 通知がきても8割が検査を受けられない、検査体制の問題
などにより、「役立たず」という評価が広がります。
この時点ですでに、COCOAの欠点として挙げられた3点のうち2つは、COCOAそのものの欠陥ではないことがお分かりいただけると思います。
HER-SYSの入力が進まないと、COCOAは通知できません。
そして通知が来ても、検査体制がなければ、検査ができないのです。
2021年4月「HER-SYS本格稼働」~My HER-SYS普及まで
HER-SYSは、2021年4月からようやく、サーベイランスのデータとして活用されはじれます。
疫学調査は断念、「紙の置き換え」に絞る
新型コロナ集計がようやく「HER-SYS」へ移行、それでも残る課題 日経クロステック
HER-SYSは当初、2020年夏までに全国自治体への普及を目指し、医療機関へも早期に普及させる考えだった。しかし2020年夏時点でも、セキュリティー機能の不十分さなどから一部自治体で導入が進まなかった。個人情報に対するアクセス制御などを整備したが、それでも課題は残った。入力項目が多く「紙よりも入力に時間がかかる」と現場の医師から不評で医療機関への導入が遅れ、誤入力などによってデータの十分な精度を確保できなかった。
機能面では、必要な役割を法定の新型コロナの発生届と患者の健康観察の機能に絞り込み、クラスター対策など疫学調査への活用をほぼ断念した。HER-SYSには120以上の入力項目があり、現在も機能としては存在している。濃厚接触者の詳しい情報を入力するなどして疫学調査に使うためだった。
疫学調査用の項目というのが、どんなものか、見たことはありませんが
「データを求める側」と「データを入力する側」のずれがあまりに大きいことに愕然とします。
「データ入力の遅れ」問題 感染増とともに影響大きく
こうして、入力項目を削減することで、なんとか運用にこぎつけたHER-SYSですが
一方で感染者数は第3波、第4波と、波を追うごとにどんどん増えていきます。
感染者が増えるにつれ、HER-SYS入力負担は増大し、大規模な「入力漏れ」が報じられるようになります。
2020年9月~ 相次ぐCOCOA自体の不具合と修正
2020年の秋から、COCOA自体の不具合が放置されていることが明らかになります。
それぞれ修正されましたが、実はすでにこの時期、Android版では正しく接触が通知されない状態になっており、「通知されるはずなのに通知されない」など、SNS上では多くの疑問の声が上がっていました。
「なおした」はずなのに、おかしい、通知が来ない。そんな状態のまま、2020年は過ぎていきます。
2021年2月 平井デジタル大臣がCOCOAの不具合について記者会見
一連の不具合について、2021年2月、平井デジタル大臣が記者会見。不具合の内容、発注方法、内閣官房IT総合戦略室(→現在はデジタル庁)との関係などについて踏み込んだ発言をしました。
COCOAのアップデートが順次行われ、GitHubでのオープンなやりとりも
そのあとも、新たな不具合が出たりしていますが
2021年3月以降、GitHub上で、民間有志とのディスカッションが活発化するなど、修正プロセスの透明性が高まり、すばやく修正されるようになってきた様子が読み取れます。
COCOAアプリは、このころを境に徐々に「使えるアプリ」に修正されていきます。それにしたがって、COCOAアプリ以外の問題に焦点が移っていきます。
2021年7~8月? 「My HER-SYS」リリース 健康観察の自動化はじまる
2021年の夏ごろ、現在では当たり前になった「My HER-SYS」(マイハーシス)による健康観察がスタートします。
「開始した」という記事がみつからないのですが、8月には各自治体の案内ページが確認されています。
画像は「My HER-SYS ご利用ガイド詳細版」(掲載終了)より
「My HER-SYS」の利用には、HER-SYSに自分のデータが入力されていることが必要です。HER-SYS上の操作により、登録案内のショートメール(SMS)が携帯電話番号あてに送付されます。「HER-SYS ID」が通知され、これによってはじめて「My HER-SYS」の登録が可能になります。
HER-SYSにきちんと入力されているかどうか、が、患者自身にとっても、とても重要な問題になってきました。
同時に、COCOAの登録案内も、自動的にショートメールで送られるようになったと思われます。以前は、保健所が患者自身に「COCOAに登録するか」をたずね、承諾を得た場合のみに送付されていたようです。このため、送付の手が回らず、陽性登録に必要な処理番号を入手できない人も大勢いました。
2021年12月ごろ「COCOA陽性登録リンク」による自動登録はじまる
以前は、COCOAの陽性登録は、ショートメールに書いてある「処理番号」を自分でCOCOAアプリに転記する必要がありました。
やってみると分かりますが、アプリから他のアプリに番号を転記する作業は、なかなかむずかしく、これが陽性登録が進まない一因になっていたと思われます。
それが、ショートメールに記載のリンクをタップするだけで、自動的に登録が可能になったのが2021年11月だそうです。
その後、実際の運用は2012年12月ごろから本格化したと思われます。COCOAの陽性登録率は、2021年12月から急上昇しました。
このころから、2022年9月ごろまで、COCOAの陽性登録率は高い状態が続き、「通知が来た」という方も多かったと思います。
2022年オミクロン株 第6波、破綻をつきつけられるHER-SYS
こうして、陽性登録率も大幅に上がったCOCOAですが、2022年に入り、オミクロン株の爆発的な感染拡大に見舞われます。
それまでの感染拡大とは、圧倒的に数が違いますね。これだけの数の患者をHER-SYSに入力する、という状況の中で、事態は急速に変わっていきます。
大阪市で大規模な入力漏れが発生
かつてない規模の感染爆発の中で、大阪市では前回より大規模な計上漏れ(HER-SYS入力の遅れ)が起こります。
大阪の報道が多いですが、他の地域でも、同様の漏れや遅延はあったでしょう。
さいたま市で亡くなった10代学生「発生届が出ていなかった」
第6波~第7波では、10代以下の子どもたちがたくさん亡くなりました。子ども本人のみならず、親御さん、ご親族、お友達の悲しみはどれほどのものだったでしょう。心が痛みます。
そんな中、2月はじめに亡くなった、さいたま市在住の10代男子学生についての記事では、救急搬送された男子学生の発生届が出ておらず(=HER-SYSに入力されておらず)、保健所による健康観察がされていなかった事実が報道されました。
男性は2日に発熱し、3日に市内の医療機関を受診して抗原検査で陽性が判明。その後も40度前後の高熱が6日まで5日間続き、6日に震えや発熱があったことから家族が救急要請した。救急隊が駆け付け、血圧や血中酸素飽和度、意識レベルなどに問題がないと判断して搬送しなかった。
同日、救急隊から保健所に照会があり、発生届が提出されていなかったため、保健所が市内医療機関に提出を要請。直後に発生届を受理して、保健師が容体を聞き取り、入院の必要はないとしたが、高熱が続いていたため、保健所による健康観察を行うと判断した。
埼玉新聞より
発生届を出していなかった理由などは明らかになっていませんが、HER-SYSの入力負担が膨大なものになっていた時期のはずです。漏れがあったり、あるいは、若い人のデータは入力しないことがあったのかもしれません。
政府も「全数把握の中止」に向け動き始める
HER-SYSへの「全数入力」は、もともと感染症法の「全数届け出」に対応したものです。HER-SYSに入力することをもって「発生届の提出」になる仕組みです。
第十二条 医師は、次に掲げる者を診断したときは、厚生労働省令で定める場合を除き、第一号に掲げる者については直ちにその者の氏名、年齢、性別その他厚生労働省令で定める事項を、第二号に掲げる者については七日以内にその者の年齢、性別その他厚生労働省令で定める事項を最寄りの保健所長を経由して都道府県知事(保健所を設置する市又は特別区(以下「保健所設置市等」という。)にあっては、その長。以下この章(次項及び第三項、次条第三項及び第四項、第十四条第一項及び第六項、第十四条の二第一項及び第八項並びに第十五条第十三項を除く。)において同じ。)に届け出なければならない。
感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(感染症法)より
一 一類感染症の患者、二類感染症、三類感染症又は四類感染症の患者又は無症状病原体保有者、厚生労働省令で定める五類感染症又は新型インフルエンザ等感染症の患者及び新感染症にかかっていると疑われる者
二 厚生労働省令で定める五類感染症の患者(厚生労働省令で定める五類感染症の無症状病原体保有者を含む。)
しかし、特に2022年からの新型コロナ感染者数は膨大な数となり、HER-SYSに手入力している自治体では、もう限界を超えているという声が強くなっていきます。
第6波 疫学調査追い付かず 出雲保健所・中本所長 全数把握の見直し望む
山陰中央新報 2022/2/4
https://www.sanin-chuo.co.jp/articles/-/159182
2022年7月「第7波」 「全数把握中止」が決定的に
2022年7月からの「第7波」は、あんなに大きかった第6波をさらに凌駕するものでした。
7月全国知事会「緊急提言」からの動き
第7波の感染爆発の中、7月末に全国知事会が「緊急提言」を行います。
各知事の発言にはさまざまな違いがみられますが、一部の知事が声高に「全数把握の中止」を求める内容が含まれていました。
これをうけ、政府も検討に入りました。
しかし、なかなか進まないことに対し、全国知事会が再度、緊急提言を行います。
全国知事会会長 鳥取県の平井知事は
「あまりにも悠長です。そんな暇ないんです。われわれ現場は、きょうあすの問題なんです」
「(全数HER-SYS入力をやめて)先生方のシミュレーションができなくなっても、そんなこと構わないです。命の方が大切です」と訴えました。
平井知事の「全数把握と全数の把握は違う」の意味とは?
ここまで、特に注意書きもなく「全数把握中止」と書いてきましたが、鳥取県の平井知事は、一方でこういう発言もされています。
「全数把握」と「全数を把握すること」は違うと指摘
TBS News Dig記事より
「仕事はやめない、全部やる」鳥取県・平井知事
「発生届け出やハーシス入力などの一連の手続きを『全数把握』と言っているんです。一連の手続きをこなすために、四苦八苦しているのが現状なんです。全数の把握は続けます、むしろ。ただ手続きは大幅に簡略化します」
「何かこう、仕事をやめるという話になるんですけれども、仕事はやめないんです、全部やるんです。ただ余計な仕事はやらないで、むしろ患者の利益のために時間や人を使いましょうと」
つまり、鳥取県としては
≪患者を把握するのをやめる話ではなくて、ハーシスに入力する業務が負担だからやめる≫
ということですね。
これが、今回話題になった「全数把握中止」の意味です。ですから「ハーシス全数入力中止」または、「発生届全数提出中止」といった方が、意味が正確かもしれません。
2022年9月26日から「全数把握簡略化」実施へ
こうして、第7波の圧倒的な感染者数に押されるようにして、9月26日から「全数把握の簡略化」が実施に移されます。
具体的には、詳しい報告の対象を、65歳以上、入院が必要な人、妊娠中の女性など重症化のリスクが高い人に限定し、これ以外の人は、年代と総数の報告のみとしています。
NHK「新型コロナ“感染者の全数把握簡略化”きょうから全国一律開始」2022/9/26
この運用は、すでに9つの県で導入されていて、26日から全国一律で始まります。先行導入した県からは、現場の負担が軽くなったという声が出ている一方で、医師会などからは詳しい報告を求めない軽症者が重症化した場合に、速やかに受診できる体制を整える必要があるという指摘が出ています。
結局、発生届の提出対象患者を限定したうえで、全体の感染者数は、年代別の総数だけを報告する、という形になりました。
全数HER-SYS入力の中止により、COCOAの終了がアナウンスされる
「全数把握の簡略化」により、医療機関で新型コロナ感染が確認された方、全員のデータがHER-SYSに入るわけではない、という状態になりました。
このことは、接触確認アプリ「COCOA」にとって、決定的な意味をもつことでした。
9月13日段階で、河野デジタル大臣がCOCOAの機能停止を発表
厚労省 COCOA案内ページにも、終了のアナウンスが流れました。
こうして、多くの有名無名の技術者がかかわり、ようやく軌道にのりかけていた接触確認アプリ「COCOA」は、あっけなく終焉のときを迎えたのです。
「HER-SYS全数把握中止」は、実はただの「デジタル敗戦」ではないのか
「HER-SYSによる全数把握中止」にいたる経緯を見ておりますと、大きく2つの系統の、異なる立場が交錯しているのが分かります。
- 新型コロナはほとんどの人が軽症なのだから、最初から全数把握などする必要はない。
- 若い人や基礎疾患がない人も、急に重症化することはあるから、全数把握した方がよいが、HER-SYSは入力に大変手間がかかるため、医療現場の負担軽減のため全数把握を中止すべき
新型コロナに対する向き合い方としては、この2つはまったく異なる見解だと思います。
1.の見解に従えば、HER-SYSなんてそもそも必要ない、となります。
2.の見解では、HER-SYSの非効率性が問題となります。
ここでは、もっぱら2.の見解に従ってお話をすすめてまいります。
実は、全数届け出を維持しながら負担軽減をしていた自治体もあった
第7波以降、全数把握を続けると医療現場に過重な負担がかかるから、いますぐやめろ、という意見がたくさん発信されました。
一方で、「全数把握を中止してもメリットはない」という発信もありました。
沖縄県対策本部内では「導入するメリットがない」との声も挙がっている。県では発生届の情報を一元化して入院調整などに当たるシステムが軌道に乗っており、新たな基準を追加することで業務が煩雑になり、医療現場の混乱を招きかねない。
琉球新報記事より
なかには、独自のシステムをHER-SYSと連携し、医師の負担を大きく軽減できていた例もあるようです。
福岡市は代行入力率がわずか6%にとどまる。そのカラクリは、民間のクラウド型業務支援サービス「kintone(キントーン)」を活用し、医師らが入力しやすい市の独自システムを作ったことだ。
読売新聞記事より
このシステムは自治体専用のネットワークを使っているため2段階認証はなく、スマホも使える。昨年導入すると大半の医療機関が入力に参加した。最終的にハーシスとつながっており、代行入力する必要はない。
「医師が使いやすい仕組みにすれば利用が広がった。国もこの視点でハーシスを抜本的に見直すべきだ」と、福岡市医師会の平田泰彦会長(69)は指摘する。
さらに、RPAによる入力自動化が試みられていた、という記事も複数確認できます。
2013年から準備されていた新システムは、なぜか採用されなかった
それだけでなく、実は国の研究班によって、負担が少なく迅速に情報を集約できるシステムが、2013年から準備されていたというのです。
国の研究班は新型インフルエンザなど過去の感染症の教訓を踏まえ、新型コロナが国内で感染拡大する7年前の2013年からHERーSYSとは別のシステムの開発を進めていました。それが「症例情報迅速集積システム=FFHS」です。
NHK記事より
開発の基本的な考え方は現場の負担を最小限にしながら、必要な情報を正確かつ効率的に集めるというものです。
…
さらに研究班では、2013年からこのシステムを実際に運用してパンデミックの発生を想定した演習を、毎年、複数の自治体と行ってきたということです。研究班によりますと新型コロナの感染拡大が始まったおととし2月、システムを新型コロナ向けに改修するよう、厚生労働省からメールで指示を受けたということですが、それ以降、連絡はなく、システムが導入されることはありませんでした。
厚生労働省の元技官で、研究班でシステムの開発を担当した北見工業大学の奥村貴史教授は「過去の教訓にもとづき、現場で起きる課題の解決を念頭に準備してきたので、もし導入されていれば、現場の負担軽減などが実現し、国内最初の感染者からパンデミックの最後に至るまで、患者の情報を全国で効率的に集約することができていたと思う。今回、過去の教訓を生かすことができなかったのは、経験などを継承する力が組織として失われていることが原因の1つではないか」と指摘しています。
…
研究班のシステム 北海道では導入され成果
北海道は開発時に演習訓練に参加していたことなどから、去年8月から研究班のシステムを導入し、道庁と道が管轄する26の保健所の間で、患者情報を共有するためのデータベースとして運用しています。
…
北海道保健福祉部の人見嘉哲技監は「HER-SYSは項目が網羅的なので、その内容をもとに保健所と情報共有したり、感染対策を考えたりはできていなかった。患者の人数は増えているのに研究班のシステムでは、現場の負担を減らすことができていて、以前とは状況が天と地ほどに違う。感染対策に取り組むうえで大事な基盤になっている」と話しています。
このようなシステムが、ほかならぬ国自身の研究班によって入念に準備されながら、新型コロナ感染拡大に際してなぜ採用されなかったのか、まったく不可思議です。
全数把握の簡略化は、本当に「負担軽減のため」だったのか
最初にお断りした、全数把握をめぐる「2つの異なる立場」に戻ってみましょう。
- 新型コロナはほとんどの人が軽症なのだから、最初から全数把握などする必要はない。
- 若い人や基礎疾患がない人も、急に重症化することはあるから、全数把握した方がよいが、HER-SYSは入力に大変手間がかかるため、医療現場の負担軽減のため全数把握を中止すべき
実際に全数把握を中止させたのは、実は1.の立場の考えが強かったのではないか、という強い疑いを持たざるを得ません。
必ずしも全数入力を中止しなくても、さまざまな方法で医療現場の負担軽減はできた可能性がある、と考えます。
一方で、全数把握を中止することに対する、深刻な懸念も表明されています。
※記事内の指摘のうち、支援物資と健康観察は、陽性者登録センターに登録すれば受けられるようになりました。ただし、一部、未登録の方は受けられていないとみられます。
であるならば、
全数把握を中止せず、デジタル技術を活用して医療現場の負担を軽減する道もあるのに、敢えてそれを放棄した可能性がある
ということではないでしょうか。
さようなら「COCOA」 新型コロナ”デジタル敗戦”の墓標がここに
本記事の表題を、「さようなら「COCOA」 新型コロナ”デジタル敗戦”の墓標がここに」とさせていただいたのは、以上の流れを追ってきた当店としてのまとめです。
ものごとを「単にデジタル化するだけ」では、現実にそぐわず、長い期間をかけて結局は大きな敗北となり、手作業と紙資料の時代に逆戻りしてしまうのです。
そのまま進んでいけば、自己目的化した、ゆがんだデジタル化に、いつまでも苦しめられると思います。「患者の命を救う」「感染を抑える」といった本来の目的が置き去りになってしまうデジタル化を、進歩とは到底呼べません。
最後に、全数把握中止によって激減した最新の陽性登録率を計算したものを掲載します。今まさに終わりのときをむかえようとしているCOCOA。この表は、日本の公衆衛生をめぐるデジタル敗戦の「墓標」のように思えてなりません。
COCOAはどういうアプリだったか【仕組みの解説】
ここからは、COCOAがまだ稼働していた時期の記事を再利用して、「COCOAとはどういうアプリだったのか」を解説していきます。
COCOAのしくみ 動画で解説
動画解説を作っていましたので、掲載します。おおまかに仕組みを理解することができると思います。
記事の中には、アプリの動作、仕組みの詳しい解説を載せていきます。
接触検知機能は、GoogleとAppleが全世界に向けて提供しているものです
スマホ同士が近くに15分以上いたら検知される「COCOA」ですが、実は、COCOAそのものには接触検知の機能がプログラムされているわけではありません。
実は、接触検知のシステムはスマートフォンの基本ソフト、Android と iOS(iPhone)そのものの中に組み込まれています。
GoogleとAppleが共同で、接触検知の仕組みをOSレベルで組み込んだのです。
COCOAアプリは、この接触検知のシステムを利用しているだけなのです。
各国の公衆衛生機関が、通知の基準、通知がきた場合に提供する情報などを独自にアプリに組み込んで、その地域で提供しはじめています。COCOAはその日本版だというわけです。
接触検知の仕組み
接触検知は、おおまかに次のような方法で行われています。
アプリを入れたスマホに、ランダムな番号が振られます
COCOAのアプリを入れ、接触検知をオンにすると、スマホ内の接触検知システムが起動します。
このとき、そのスマホにランダムな番号が自動的に割り当てられます。
背番号のようなものですが、スマホ上からこの番号を確認することはできません。(自分にも確認できないが、他人に見られることもない)
この番号(ID)は、24時間に一回自動的に変更されるようになっています。
決まった番号がずっとそのスマホについているのではなく、「自分が過去にどの番号だったかは、自分のスマホだけが知っている状態」という仕組みです。
自分のスマホのBluetooth感知範囲内にある、すべてのスマホと番号がやりとりされます
スマホのBluetoothの電波は、非常に近い範囲にしか届かない、弱い電波です。
このBluetoothの弱い電波が感知できる範囲に、COCOAがインストールされた他のスマホが入ると、このランダムな番号がお互いに交換されます。
「自分はこの番号と、この番号と、この番号のスマホの近くに、何分ぐらいいた」という情報が、スマホ内に記録されていきます。
この記録は最新の14日分だけがスマホ内に保持されます。
陽性情報を登録すると、陽性者のスマホに振られた番号が情報として流れます
PCR検査で新型コロナ陽性になった人が、自分のアプリに陽性情報を登録すると
陽性者のスマホに過去に振られた番号(ID)が、情報として一斉に全員のスマホに流れます。
名前や電話番号は流れません。アプリ内でランダムに振られた番号だけが、アプリを入れているすべてのスマホに情報として送られます。
送られてきた番号が、接触履歴と照合され、接触があれば通知されます
手元のスマホは、その送られてきた番号と、自分のスマホに残っている14日分の接触履歴を照合します。
もし自分の接触履歴の中に、陽性者として通知された同じ番号があれば、何月何日に、どこでかは分からないが濃厚接触した可能性がある、ということになります。
その場合に、COCOAのアプリは「濃厚接触の可能性あり」という通知を表示します。
誰と、どこで、というのは分かりません。「何月何日」ということだけが分かります。
アプリで通知が出ない範囲の接触もデータが見られた「COCOAログチェッカー」について
COCOAアプリは、通知が出なくても、Bluetoothの到達範囲内にいた陽性者のCOCOAの存在を記録として持っています。
距離が遠い、日時が通知対象範囲外である、といった理由で、そのデータは通知されることなく、14日間で自動的に上書きされていくのですが、そのデータを取り出して確認する方法が民間で考案され、公開されていました。
「COCOAログチェッカー」です。
https://cocoa-log-checker.com/(提供終了)
iOS, Androidそれぞれの使い方が載っています。実際にこれを使って、感染するほどの距離ではなくても、「14日間の間に、どのくらい自分の行動範囲に感染者が出たか」の目安にすることができます。
※iOS版COCOA v2.0では、このツールでデータ解析ができなくなりました。
解析ができなかった方は、COCOAをアップデートしてv2.0.1にすると、COCOA自体に接触データのエクスポート機能が追加され、そのデータを解析できる「COCOAログチェッカー 2.0β」が公開されています。(2022/7/11更新)提供終了していました
コメント
陽性者のIDに有効期限はあるのでしょうか?
陽性者は陽性登録すると一生陽性扱いになるのかが知りたいです。
→陽性登録の操作はたくさん見かけますが、治癒後の操作方法を見たことがありません。
コメントありがとうございます。記事内の動画に表現しておりますが、陽性登録をすると、日毎にランダムに変更される ID の履歴を使って、「そのID をその日に持っていたココアの所有者が陽性であった」旨の情報が配信されます。この時点でも、すでにそのID が誰のものであるかは分からない状態です。
さらに、接触情報そのものが14日間で自動的に破棄される仕組みです。
またココアのアプリが ID そのものを取得することはありません。Android や iOS の内部で処理され、14日間経つと内部で破棄されます。
Google アカウントとも AppleID と紐付いていませんし、もちろん機種変更で移行されることもありません。あくまでも「誰かはわからないけれども陽性になった人と接触した記録があったか」を確認するだけの仕組みになっています。
cocoaのブログ記事読ませて頂きました。大阪ですが、大都市圏では全く機能していませんでした。同居家族がコロナ感染し自宅療養を余儀なくなりましたが保健所が処理番号の発番をしない為、全く機能していないと断言出来ます。第5波でも同じと思われます。接種通知を信用せずにそこに有る物として行動するのが1番と思われます。1番身近なアプリがそういう状態は、コロナ施策の信用を1番無くす原因の1つと私は考えます。
コメントありがとうございます。ご家族が罹患されたのですね。無事回復されたと受け止めましたが、大丈夫でしたてしょうか。
最近の流れの中で、尾身会長がIT技術の駆使ということを発言しましたが、COCOAには一言も触れられませんでした。デジタル庁平井長官も、アプリを直す話はしましたが陽性登録は手つかずです。
そんな状態なので、当店としてももう消しても構いませんという寸前です。実際にスマホの動作に影響がある方は削除して構わないと思います。
おっしゃるように保健所が番号を発行しない限りどうにもならないでしょう。実は発行操作は簡単なようで、ボタンを押すだけです。発行前に登録の意志を確認するといってますが、この状態で追いつくわけがありません。
陽性者全員に機械的に発行する方式にしない限り、望みはないでしょうね。保健所としては検査を増やしたくないという思惑もありそうです。それではだめなんですけどね。