当教室に通う方のなかには、最初スマホを持っていなかったのに、営業さんにすすめられて、初めてスマホにした方も多くいらっしゃいます。
また、初めてのスマホを前に、どうしていいかわからなくて、スマホ・タブレットコースを受講しに来られる方もたくさんいらっしゃいます。
そんな皆さんの「初めてのスマホ」を拝見して、
「うーん、ショップがこの機種をすすめたのですか……」
と、うなってしまうときがあります。結果的に、その機種を選んだことで、その方がスマホの良さ、便利さを感じることができなくなっているのです。
教室で見てきたそんな例から、世間一般で言われる「シニア向けにおすすめのスマホ」に、「ちょっと待った! それで本当にいいの?」と、疑問を投げかけてみたいと思ったのがこの記事です。
間違い1: 「初心者だからいちばん安いやつでいい」
「初心者の方には、とりあえず一番安いこちらがおすすめです」
一見もっともらしい、このような言葉をかけられたら「本当にそれでいいの?」と、自問自答してみたほうがよいと思います。
「内蔵メモリ」の「ROM」の容量を気にして下さい
値段とか「初心者向き」といった言葉ではなく、見ていただきたいのはこの部分です。
「内蔵メモリ」の「ROM」という項目です。
写真では「32GB」と書いてあります。では、割と高い機種の同じ部分はどうなっているかというと
こちらでは「64GB」と書いてあります。機種によっては「128GB」が販売されている機種もあります。
「電話とLINEだけ」の方でも、32GBでは少なすぎる場合もある
最近ではさすがに「16GB」という機種はなくなりましたが、以前はよく、初心者向けといってROM 16GBの機種が販売されていました。
それを買った方がどうなったかというと、
LINEが楽しくてたくさん打っているうちに、いつのまにか「メモリがいっぱいです」という警告が出て、アップデートすらままならなくなった
という事例があります。16GBで完全に何の隙間もなくパンパンですから、最近の32GBのスマホでもかなり厳しい容量のはずです。
この方の場合は、写真もそれほど撮ってはいませんでした。しかし、たくさんのお友達と毎日楽しく使っていたLINEが、たくさんのトーク履歴(会話した記録)がたまって大きな容量を取るようになっていました。
システムとLINEだけでほとんどいっぱいになってしまったのです。
どうしていいか分からず、当店にお持ち込みされましたが、解決策としては「LINEのトーク履歴を削除する」ぐらいしかない状況でした。普通だったら写真だけ別に抜き出して削除してさしあげますが、削除できる写真すらほとんどなかったからです。
買い替えてもLINEのトーク履歴が移行できないほど一杯だった
そんなときでも、トーク履歴の削除なんて絶対に嫌ですよね。
ですから、お買い換えをすすめたのですが、
なんとLINEのデータを新しいスマホに移行しようにも、LINEそのもののアップデートができないほど一杯だったため、トーク履歴が保存できるバージョンに更新するために、パソコンにつないで一時的にデータを退避するなど、大変高度な操作が必要だったのです。
しっかり使いたいという気持ちがある方はROM64GB以上のスマホにしてください
「初心者だから最初はROMは少なくていい」というのは絶対に間違いです。
もちろん、中には少なくていい方もいらっしゃいます。
要は、ご自身がどの程度「スマホを使いこなしたい」という気持ちを持っているかです。
どんなに初心者でも、
- LINEを周りの友達が使っていて、スマホを買ったらしっかり使うことになる方
- 写真が好きで、自分で撮ったり、LINEで送ったりしたい方
- スマホの地図・カーナビ機能、音楽、ネットバンキングなど、さまざまな機能に興味があって使ってみたい方
こんな方は、ROMが少ないモデルにすると、たちまちいっぱいになり「こんなの使えない」となってしまいます。買って3ヶ月でいっぱいになって、買い替えるなんて、困りますよね。
ショップの方も、「初心者だからこれ」と簡単に決めないで、しっかり用途と意向をヒアリングして、適切な機種をすすめてあげてください。
間違い2: シニア世代には「かんたんスマホ」がいい
つづいてよくある間違いで、ご年配の方が初めてのスマホを買う時に、ほぼ迷わず「かんたんスマホ」を購入されている場合です。
お子様たちが「もうトシなんだから、かんたんなやつがいいよね」といって、「かんたんスマホ」をすすめる場合もありますね。でもそれは、本当にそれでいいのでしょうか?
かんたんスマホはかんたんじゃない
結論から言いますと、かんたんスマホはかんたん、ではありません。
買って数週間は、ボタンが大きくて分かりやすいから、かんたんだと感じるかもしれません。
でも、徐々にその方がスマホを使いこなしていくと、とたんに「かえってむずかしい」に変わるのです。
かんたんスマホの罠1: 市販のガイドブックがまったく通用しない
かんたんスマホの落とし穴のひとつは、コンビニや本屋で打っている「はじめてのスマホ」とか「スマホ必殺技100」みたいな、そういうガイドブックがいっさい通用しない点です。
かんたんスマホは、要するに通常のAndroidの上に、独自のホームアプリをのせ、独自画面の上からしか操作できないようにしたものです。
アイコンやメニュー、設定画面などが全部、普通のAndroidとは異なります。ですから、市販のガイドブックは、アプリを開いた後の操作に一部使える程度で、かんたんスマホにはほとんど通用しないのです。
せっかく、「よし、少し慣れてきたから、本でも買って勉強するか!」と思って買ってきても、自分の画面はまったく違うので愕然としてしまうのです。
かんたんスマホの罠2: スマホならではの便利なアプリが、まったく使えないことがある
かんたんスマホがかんたんなのは、もともと入っている機能を使って満足できているうちです。
言い換えれば、かんたんスマホの中で、ガラケーでも別に普通についてる機能を使っている間だけ、かんたんなのです。
スマホならではの使い方をしようと、何か新しいアプリを入れようとすると急にむずかしくなるのです。
旧バージョンの「らくらくホン」はまったく使い物にならなかった
数年前(現在は2019年)まで販売していた、旧バージョンの「ドコモらくらくホン」をお持ちの方に実際にあった話です。
「お母さんもそろそろLINEやってよ」と言われたが、LINEが入らない。
ドコモショップ店員、息子さん、会社の方が次々に試したが、まったくLINEが入れられない。
最後に当教室にお持ちいただいたので、LINEを入れてさしあげたら、大変感動されました。
この当時の「らくらくホン」は、LINEはdマーケットの専用ページからしか入れられない仕様でした。Playストアそのものが使用できないため、ほとんど新しいアプリは入れられない状態でした。
こんなスマホがちょうどよい方というのは、結局のところガラケーがちょうどよい方なのだな、と、このとき思ったのでした。
新バージョンの「らくらくホン」でも、やっぱりアプリは自力で入れられなかった
最近の「らくらくホン」は、さすがにPlayストアが追加されており、いくらか良くはなりました。
しかしそれでも「Googleマップとか、LINEとか、いろいろ便利だっていうけど、どうやったら使えるんだい」というご質問が結構ありました。
なぜそうなるかといいますと、
らくらくホンは、通話やメールといった、「ガラケーにもある機能」のボタンを大きくするために、GoogleマップやLINEのアイコンが小さく、時には「その他の機能」というボタンにまとめられてしまうこともあります。
しかも、この方の場合、ショップの店員が「らくらくホンだからいらないだろう」と思ったのか、Googleアカウントを設定しないままお渡ししていました。
これでは、Playストアをがんばって開いても「ログインしてください」と言われるのみで、何もインストールできませんね。
そんなわけで、「ドコモらくらくホン」には、実はかんたんでないために、苦労されている方が多い現実があるのです。
かんたんスマホの罠3: 簡単モードは解除していいんですよ
ここまでは、ドコモの「らくらくホン」の話ですが、このほかのメーカーが出している「かんたんスマホ」もあります。
それらはだいたい、「簡単モード」に設定して出荷されており、自分で解除できるようになっています。
よく、「簡単モード」の状態でお持ち込みされることがあり、
- 「~というボタンがあるらしいんだけど見つからない」
- 「~という機能はないんでしょうか」
- 「ちゃんと操作しているのに、いつも~がうまくいかない」
といったご相談をお受けすることが多いのです。
こんなときは、まず「簡単モードの解除」を試します。すると、ただちに必要な機能が呼び出せたり、思い通りの動作をしたりします。
「簡単モード」の動作は市販のガイドブックや、まわりの方からの説明とはちがう動作なので、言われた通り、書いてある通り操作しても動かないことがあるのです。
そんなとき、皆さんこうおっしゃいます。「ああそうそう、簡単モード解除でしょ。知ってたけど、今まで解除してなかった。解除すればいいんだ!」
皆さん、自分は初心者で分からないから、簡単モードは解除してはいけない、と思いこまされているのだと思います。
そうではなく、「簡単モード」が話をややこしくしているだけなのです。
「簡単モード」の枠におさまらない機能を使いたい方、言い換えれば「スマホをガラケー以上に使おうとしている方」は、すぐに簡単モードを解除してお試しください。きっと、満足のいく操作ができるはずです。
そして、だったら、最初からかんたんスマホにしなくてよかったですよね。・・・という話になるのです。
初心者だからと決めつけず、長く使えるスマホをお買い求めください
以上、当店で実際にあった事例をひきながらご説明させていただきました。
まとめますと、
初心者だから、と決めつけず、このスマホでどんなことが「したい」のか、をしっかり確認してからご購入ください。
どんなことが(今)「できる」か、ではありません。スマホを買った後の夢として、どんなことが「したい」か、が重要なのです。
ガラケーと変わらなくて構わない、という方は、中途半端にかんたんスマホを買うよりも、ガラケー(ガラホ)の方がよほど使いやすい場合もあります。
そうではなく、
「スマホはいろいろ使えるっていうから、スマホにしてみるか!」という場合や、
「お父さんもそろそろスマホ使ってみたら」というお気持ちですすめる場合など、
つまりは、「ガラケー以上のものを希望してスマホを買う」のであれば、少し上のモデルを思い切って購入されるべきです。
初心者はいつまでも初心者ではなく、高齢者は人生の先輩なのです。購入後、早い方は3ヶ月、遅くとも一年以内に、「簡単スマホ」「初心者向けスマホ」にしたことを後悔することになってしまう、かもしれませんよ。
コメント
母が70代になった時、ラクラクスマホプレゼントしましたが、やはり、好きなアプリが落とせないとストレスがあり、思い切ってiphoneに変えました。
元々、パソコン教室に通っていたので、すぐ慣れてくれて、70代後半の今はiphoneSEを使ってます。
設定だけは私たち家族がしていますが、使うだけなら、使いこなしてます。
好きなアプリも落とせると快適みたいです。母の好きなアーティストの曲をiTunesで入れたら、日課のお散歩中に、聞いているようです。
バソコン使っている人なら、iPhoneは、特に、使いやすいかもしれません。
コメントありがとうございます。個人的に私の両親も、数年前はじめてスマホに変えるとき、相談されました。「iPhoneとらくらくスマホどっちがいいだろう?」
当時から記事に書いたような経験をしていましたので、迷わずiPhoneと答えたのですが、父の方はもうしっかり使いこなしており、母は苦手でしたが少しずつ新しいことに挑戦しているようです。
コメントいただいている通り、設定だけが難所です。これはらくらくスマホでも結局は同じことなんですけれどもね。
らくらくスマホも、最近見た機種は普通にGoogle Playも使え、だいぶ変わってきたようですが、ホーム画面の組み換えがどうしても難しいですね。
個人的には、iPhoneに、アイコンの説明が文字で出るモードがあるような形がベストなんではないかなと思っています。
ご返信、ありがとうございました。浅薄な認識で失礼いたしました。もう少し勉強します。
いえいえ、浅薄なんてとんでもないです。販売店やメディアが、なんでもSDにうつせばいいと言いすぎなのです。SDにたくさん写真がある方に、SDが差せないGoogle Pixelをすすめていた例もあります。買った直後はサクサクでも、何年かして問題が起こり、当店に持ち込まれます。 売るときだけ良い話をして、購入後のサポートがおろそかになっているのです。
私も今年62歳で2ヵ月前にガラケーからスマホに機種変更しました。おっしゃっている32GBは少ないというのどうなのでしょうか?LINEの内容はテキストで別名保存出来ますから、SDに保存する方法を教えれば良いのではないでしょうか?
コメントありがとうございます。本文に書いておりますが「32GBでは足りない場合がある」というのが正確です。どんな場合かといいますと「LINEをたくさんやりとりする方」。
LINEのトーク履歴はSDに移すことができず、どんどん本体にたまります。分割して過去のものを消す機能などもないため、あなどっていると、ものすごい量になっている実例を教室でたくさん拝見しています。詳しくは本文を再度ご覧ください。
テキストで保存できれば良い、という方は、LINEのヘビーユーザーになればなるほど少なく、「テキストでは絶対に嫌」「このまま全部残したい」というお気持ちもよくわかるからこそ、SDに移せば良いという説明が多い中で、敢えて警鐘をならす記事とさせていただいています。
高齢者の認知の状態は個人差が大きいので、この記事が主張している「間違っている」という主張もまた間違っています。使用者ひとりひとりの個性を把握し、それに基づいて機種を選ぶ必要があります。
コメントありがとうございます。本稿の一番大きな論旨は、普通のスマホでなく「かんたんスマホ」がよい方は、おおむねガラケーのままがよい方である、という趣旨です。
「かんたんスマホでいいからスマホに変えることを勧める」ことは、結局どちらのニーズも満たさない、まちがった推奨であると考えています。
「使用者ひとりひとりの個性を把握し、それに基づいて機種を選ぶ必要がある」ということを申し上げているのですが、シニア世代に「普通のスマホ」をすすめるお話は、なぜか受けが悪いのです。
しかし、現実に毎日シニア世代の皆様と接していて、「シニアには簡単スマホぐらいがちょうどいい」という考えが、いかに間違ったものであるか、日々痛感する日々の中で、本稿を公開させていただきました。
「ニーズを把握」と一言で言っても、使ってみて初めて気づくニーズもあります。シニア世代になんとしてもスマホを買わせなければ利益にならない誰かの、浅はかな思い付きが、「かんたんスマホ」の押し付けとなり、「スマホ苦手」な方を増やしている結果になっていることは、もっと知られてよいと現場で考えております。
年寄りは、電源のon.offですら出来ない。何度も教えシールも貼ったのに!
貴方の考えているシニアとは何歳位までかな?
そんな状態なら、携帯は無理ってか?
こんにちは、コメントありがとうございます。コメント者様のお立場にもよりますが、
おっしゃる通り、実際に電源をON/OFFできない方は、これは携帯電話を使えないですね。
指でボタンや画面を押すことができ、また書いてある文字を読み取れる方であれば、
当店の経験上でいいますと、
スマホのタッチ操作がどうしてもできない方、
例えば脳疾患の後遺症で震せん(ふるえ)がある方などは、どうしてもスマホはむずかしく、ガラケー(ガラホ)をおすすめする場合があります。
そうでなければ、
機種によって全部操作が違う「かんたんスマホ」よりも、「みんなと画面が同じ」になる、一般のスマホの方が、最終的にはうまく使えていらっしゃる印象です。
「何歳ぐらいまで」という年齢で線引きすることは難しく、例えば若くても要介護度が高い方、年をとっても自力で何でもできる方、と個人差がありますね。