本記事を初公開したのは2022年の夏でしたが、時は流れて2023年も夏になりました。
新型コロナウイルスの新しい変異株「オミクロン株」は、大変大きな「第6波」を引き起こしてから、丸1年半の間に多くの変異株に分かれています。
「コロナの致死率は下がった」「もはや風邪と同じ」と言う人もいますが
2022年年頭から2023年5月はじめまでの間に、総感染者数の0.18%にあたる方が死亡されています。
2022年~2023年5月で、亡くなった方は5万6千人にのぼります。
2020年と2021年を足しても、死者数は1万7千人です。いかにオミクロン以降の新型コロナでたくさん亡くなっているか分かります。
こんなに人が死ぬ感染症を、「風邪と同じ」と言うことは決してできません。
感染力がたかまって、防ぐことはより難しくなり、「もう防がなくていいじゃないか」という風潮も生まれています。
そんな中で、2023年5月8日、新型コロナの感染症法上の分類が、『5類感染症』に移行されました。
検査体制や、感染者の隔離、病床確保、入院調整などが大幅に縮小しています。2023年夏の「第9波」では、初めて、「お盆明けても感染者数がピークを超えない」という事態となっています。
そんな中、教室では、これまで以上に感染対策を充実させ、安全に対面レッスンを実施できるよう、工夫を重ねてきています。
現在当教室で実施している感染対策をご紹介します。
接触・飛沫だけでなく「空気感染」を防ぐ必要があります
国立感染研も空気感染を認める
2022年3月末に、こんな記事が出ました。
報じられている感染研の公表文書はこちら。
「エアロゾル感染」とは、一般に「空気感染」と言われるものですが、空気そのもので感染するわけではありません。感染力のあるウイルスを含む、微小な飛沫(エアロゾル)が空気中をただようのです。
きわめて小さい粒子なので、机や床についてしまうのでなく、空気中をただよってしまうのです。
距離が近いほど感染リスクは高いが、遠くても感染した例はある
ウイルスを含む粒子が、下に落ちずにただようとすれば、
一般に感染対策の距離とされる2mを超えても、感染リスクはある
ことになります。
感染者が呼吸をすると粒子が放出され、大きな声を出したり、歌ったりすると、放出される粒子の量が増える。また感染者との距離が近いほど(概ね1-2メートル以内)感染する可能性が高く、距離が遠いほど(概ね1-2メートル以上)感染する可能性は低くなる。特に換気が悪い環境や密集した室内では、感染者から放出された感染性ウイルスを含む粒子が空中に漂う時間が長く、また距離も長くなる。こうした環境に感染者が一定時間滞在することで、感染者との距離が遠いにもかかわらず感染が発生した事例が国内外で報告されている。
新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の感染経路について | 国立感染症研究所
「2mという距離が、これまでのソーシャルディスタンスの指標となっていたが、インド株では2m離れていても、10%程度の感染リスクがある。大声でしゃべっていると2m離れていても感染リスクは10%を超える。感染力が強いウイルスが広がれば、従来からの距離の取り方を見直していく必要が出てくる」
「新型コロナ変異株は2m離れても感染リスク高。飲食店での有効策は?スパコン富岳が解析」 2021/6/23 PCWatch
「声を大きくして言いたいのは、どんなに感染リスクが低くても、その状態を長時間保つと、リスクはどんどんあがっていくことである」
※記事公開当時、デルタ株のことを、はじめて発見された場所にちなみ「インド株」と呼んでいました
話さなくても、呼吸するだけでエアロゾルは出る
2022年、「屋内でも、会話がなく距離をとれればマスクを外して構わない」という指針が、厚生労働省から出されました。
「会話さえしなければ、感染性のエアロゾルは気にしなくてよい」
「距離2mとれば感染リスクは低く、マスクを外して大丈夫」
と読めます。
ところが、実際には呼吸するだけで、感染性のエアロゾルは出ています。
なにしろ、吐いた息からコロナウイルスが検出できるくらいなのです。
換気が悪い場合や、換気していても部屋の一部に空気が滞留した場合などは、この吐いた息に含まれるウイルス飛沫が、だんだんに室内にたまっていくことは想定しなければなりません。
会話をしなくても、室内で長時間とどまるなら感染対策が必要
このように、当店が確認した事実から考えますと
2m以上離れていても、換気が悪い室内では
会話をしなくても、ただようエアロゾルに長時間さらされることで、感染リスクが上がる
マスク、換気など、空気感染を防ぐ対策が必要
と判断しています。
はっきり申し上げれば
厚生労働省の2022年指針に従えば、室内でマスクを外すことにより、感染リスクが高くなってしまう
と考えています。
それでは、このやっかいな「空気感染」を防ぐために、いったいどんな対策ができるでしょうか?
室内での空気感染を防ぐ感染対策とは?
空気感染を防ぐ対策として、多くの専門家・有志により、さまざまな方法が考案されています。
- CO2モニターを用いて、職場や自宅のCO2 濃度を測定すれば、その部屋の換気状況がわかる。
- 換気が重要
- HEPAフィルターを装着した空気洗浄機はコロナ対策に有用
- 天井付近で紫外線を水平照射するのが有効
実際に行われている空気感染対策
すでにさまざまな場所で、こうした対策は実施されています。
イオングループ
CO2メーターを店内にひろく設置し、数値をモニターしながら換気をされているようです。
また、局所的にHEPAフィルタを装備した空気清浄機を設置したり、劇場では紫外線とMERV13フィルタを用いた大規模空気清浄設備を導入されているようです。
※MERV13フィルタは、HEPAフィルタには劣るもののウイルス除去能力をそなえたフィルタです。
東京メトロ半蔵門線
本装置は、車内の空気を装置に取り込み、254nm(ナノメートル)付近の紫外線を照射した空間を通過させることでウイルスや菌を抑制し、車内空間の環境改善を図ります。本装置は、病院、食品工場、商業施設、オフィス、学校などで利用されている製品を鉄道車両向けに開発したもので、日本初の試験搭載となります。
空気中のウイルス・菌を抑制する機能を持つ空気循環式紫外線清浄機の搭載試験を実施します | 東京メトロ
当店で実施している空気感染対策
当店は、規模も小さく、また賃貸店舗ですので、大々的な工事をともなう対策はできません。
ですが、それなりに工夫して、次のような空気感染対策を実施しています。
CO2モニターの設置
教室内にCO2モニターを設置し、モニターしながら換気をしています。
もちろん、CO2自体がコロナ感染を招くわけではありませんが、在室する人が吐いた息がどの程度滞留しているか、換気が足りているかどうかの指標にはなるというわけです。
建築基準法では1000ppm以下とされていますが、コロナ対策としてはそれでは不十分だと考えています。現時点では、換気時600ppm未満、空気清浄機運転時1000ppm前後という基準で運用しています。
十分な換気の確保
小さな教室なので、全方向に大きな窓がある、というわけにいかないため、いろいろ考えました。
一方の細くて小さい窓から、サーキュレーターを使って強制的に排気すると、ほぼ反対側にある開けた窓から空気が入ってくる、というように、気流を一方向に制御する仕組みを作りました。
こうすることで、効率よく全体の空気が入れ替わり、一部分だけ感染リスクが高い、といった状況を防いでいます。
大型空気清浄機(Corsi-Rosenthal Box)
換気の対策はしましたが、真夏や真冬には、換気をすることで室内の居住性がいちじるしく損なわれる場合があります。
そんなとき、どうする?と考えました。
それでも頑張って換気をする!……と、いくら言ってもですね。
実際上は換気を続けられないわけです。
それなりに対策しておかないといけません。
参考にしたのは、米国カリフォルニア大のコルシ博士、エアフィルター会社のローゼンタール氏が提案された、この装置です。
エアコン用のフィルター(MERV13規格)数枚と、20インチ送風機をガムテープで張り合わせただけの装置なのですが、フィルター面積が大きく、風量も大きいため、効率よくウイルス飛沫を除去できそうです。
当店でも材料を入手して、実際にこんなふうに手作りしました。
実際に設置しているようすはこちら。
パソコンデスクを一つ占拠してまして、パソコンはすみにおいやられています。これじゃレッスンできない! という感じですが、実はこのパソコン、現在はオンラインレッスン専用として使っており、ちゃんと稼働しています。
写真でCorsi Boxの下に写っているのは、一般の小型空気清浄機です。こちらは本当のHEPAフィルタがついており、内部に紫外線殺菌灯もあります。いかにも小さいですが、大きい方の空気清浄機に対して補助的な役割をさせるねらいです。
実は、Corsi BoxのフィルターはMERV13という規格で、HEPAではありません。もともとのコンセプトが「安くつくれて、誰でも作れて、十分な有効性」ということらしいのです。
こんな感じで、小学生も、また大学生たちも、みんなでよってたかって組み立てて、教室に設置してるそうです。
日本メーカーの「クレアウィンボックス」クラウドファンディングも
日本では、このMERV13フィルターがなかなか入手できないのが難点です。通販では売っていますが、どうしても米国よりも割高になります。
日本で供給されている同種のフィルターも、値段が高く、「DIYで手軽に」という感じにはならなくなってしまいます。
当店の場合は、通販を探しまくって。安価なMERV13フィルターを入手しています。
ところが、次の章で触れる、日本のフィルターメーカーさんが、自社のフィルターを利用して「日本版ローゼンタールボックス」の試みを始められています。
夏には試験販売が行われました。
本格的な商品化に向けて、クラウドファンディングも行われ、多くの支援を集めました。
クラファンのページには、返礼品一覧のほか、2020年1月にこういうフィルターが必要だと考えて開発に着手された経緯、きょうの日をみることなく亡くなった社員様のことなど、大変詳しく思いをつづられています。
2023年1月23日に開始され、たった一日で目標額の3倍の支援を達成されました。
エアコンでもウイルス除去「クレアウィンフィルター」
Corsi-Rosenthal Boxは、空気の流量が結構大きいので、確かにこれでも十分有効だとは思ったのですが
より安全を追求して、もうひとつ、複合的な対策をすることにしました。
それがこの、「エアコンが空気清浄機になる」、というフィルターです。
大阪の会社様なのですが、しっかり試験もされていまして、準HEPAフィルターといってもよいくらいの性能です。価格も、家庭用タイプで1枚4500円くらいです。一般の家庭用エアコンの場合、そこから2回分とれます。
さきほどのクラウドファンディングの返礼品にも、「フィルターのみ」という選択肢があり、市価より安くフィルターを購入できます。
オンラインと対面を組み合わせたレッスンで、室内の人数を少なく
また当店では、可能な方はできるだけオンラインレッスンのご利用をおすすめしています。
自分のパソコンがあって、ネットにつながっていて、マイクとスピーカーまたはヘッドセットがあれば、気軽にオンラインレッスンをご利用いただけます。
やることはほぼ教室と同じのため、「出かけなくていい」「仕事から帰ったらそのまま受講できる」と、大変好評です。実際にご予約はいま、半分以上オンラインのご予約です。
こうすることで、教室での在室人数を3人以下におさえることができ、対面レッスンの方も安全に実施できています。
検査キットを常備し、少しでも症状があればこまめに検査
当店では、教室に勤務するスタッフは週に一回、定期的にPCR検査を行っています。
当店では、ながく週一回の定期PCR検査を続けてきましたが、オミクロン株は感染力が高く、発症前の陽性期間がたいへん短いことから、効果が薄いと判断し、現在は、「少しでも症状を感じたら抗原検査を行う」という方針に変更しています。
PCR検査は、現在もっとも確実に新型コロナ感染を検出できる検査法です。検体の中に含まれる、ウイルスの遺伝子を高感度で検出できます。ウイルスがいないのに陽性を示す「偽陽性」もほぼゼロです。
ただし、PCR検査は、検体をラボに送らなければならないため、その場で結果が出ません。このため、当店では抗原検査キットも組み合わせて使用しています。気になる症状があった場合に、すみやかに検査できるよう、自宅や教室に検査キットを常備しています。
新型コロナ対策というのは、ウイルスの対策ですから、検査を行うことはあらゆる対策の基本になります。ここをおろそかにしては、「なに対策をしているのか」分からなくなってしまいますね。
複合的な対策で安全を確保する「スイスチーズモデル」
こうした対策を組み合わせることで、一つだけの対策よりも安全な状態を作っています。
どの一つをとっても「完ぺき」かと言えば、そうではないのです。
しかし、それを複数組み合わせることで、どれかの対策に漏れがあっても、他の対策がカバーする、という考え方です。
こうした考え方は、海外で「スイスチーズモデル」として提唱されたものと、重なるものです。
ひとつひとつは、穴が開いてねずみが通り抜けられるチーズですが、それを多重に重ねることによって、最後の人間までウイルスがたどりつけないように防御できる、という考え方です。
換気をしてもウイルス量が多い感染者がいたら安全ではないかもしれない、PCR検査も完全ではない、マスクにも漏れがある場合だってある。でも、それらを複合的に実施することで、安全に社会活動が可能になる余地が生まれると考えています。
同じような、事業者の方、教育関係者の方に、ご参考になればと考え、記事にしてみました。
「定点当たり感染者数」グラフを見られるページを公開しています
2023年8月、「第9波」の感染状況が深刻さを増す中で、その深刻さが分かるウェブサイトがきわめて少ないことから、当店独自に、感染者数・入院者数のデータをグラフとして表示するページを公開しました。
5類移行後の「定点把握」は、検査が有料化されたことや、小児科定点に偏っていることなど、正確な感染状況の把握ができていない問題が指摘されていますが、ともかくも、これが現在日本で公式に発表されているコロナ統計です。
死者数は、別に人口動態統計を集計しなければ分かりませんが、日々の状況判断に、お役立てください。
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