本日のニュースで、「FB、暗号資産発行へ」とデカデカと見出しが出ました。FBは「フェイスブック」の略ですね。
すこし前から、「仮想通貨」「暗号資産」といった言葉があちこちに顔を出し、「ビットコイン」「取引所」といった言葉も私たちの目に触れるようになっています。
当教室にもよくご相談があるのですが、とにかく「今のうちに買っておけばもうかる」という話を聞いて始めた方が多く、暗号資産の「しくみ」まで理解してやっている方はほとんどいらっしゃらない現状です。
そこで、今回のニュースを機に、解説記事を書いてみることにしました。
「暗号」という言葉からは、なにかあやしい、後ろ暗いイメージも連想してしまいますが、
その意味を正しく知れば、どうしてそれが今、「通貨」とか「資産」と結びつくのかが、お分かりいただけると思います。
「暗号資産」を分かりやすく説明すると……
「暗号資産」「暗号通貨」「仮想通貨」この3つはすべて同じもの
「暗号資産」「暗号通貨」「仮想通貨」この3つはすべて同じものを指しています。
2019年5月21日の法改正によって、法律上の呼称は「暗号資産」とされました。
(「資産」という呼び名はちょっとどうかな? と思うところもあります。)
「お札やコインがない、通帳だけのお金」のようなもの
暗号資産は、ものすごくかみ砕いていいますと、
お札やコインがなくて、通帳の記入だけで流通する通貨のようなもの
です。
みんなで共用の通帳 =「ブロックチェーン」
この通帳はしかも、自分専用ではありません。みんなで共用の通帳が1つだけある、という仕組みになっています。
(暗号資産にはいろんな種類がありますが、この種類ごとに、世界で1つです)
このみんなで共用の通帳を、「ブロックチェーン」といいます。
暗号を使って通帳記入する
この通帳に、 世界中から、暗号で記帳していきます。
送金する時は「公開鍵」受け取るときは「秘密鍵」
誰かに送金する時は、暗号の「公開鍵」を使って、インターネット上に一般公開で送信します。この情報は、通帳にただちに記載されます。
みんながこの情報を見るわけですが、「秘密鍵」を持っている真の受取人だけが解読することができます。
解読できないと、自分のお金として使うことはできません。秘密の鍵を持っている人以外の人は、決してこの通帳から引き出す操作をすることができません。
このように、通帳記入に暗号を使うことで、「だれがいくら持っているのか、だれにいくら払ったのか」が間違いなく記録され、資産としての意味を持つのです。
この「公開鍵暗号」のしくみは、後の章で少し詳しく説明します。
暗号鍵は印鑑のようなもの。
暗号=印鑑と例えで理解していただいても結構です。通帳に印鑑をあわせることで、お金をおろすことができます。
印鑑ではなく、暗号ですから、入れておくのも印鑑ケースではありません。コンピュータの中の特別な場所に、盗まれないように保管する必要があります。
暗号鍵を入れるのが「ウォレット」
この、暗号の保管場所のことを「ウォレット」といいます。「財布」という意味で、中にザクザクお金を入れているように聞こえますが、実際は自分専用の「秘密鍵」が保存されています。
暗号資産のしくみを、もうちょっとだけ詳しく説明
通帳(ブロックチェーン)が正しく保たれるしくみ
暗号資産にとって一番大切なものは、世界共通の通帳=ブロックチェーンです。
ここに不正な情報が書き込まれると、資産が盗まれたり、あるはずの資産が減ったりします。ですから、ブロックチェーンが正しく保たれ、取引をすべて記録することがたいへん重要なのです。
ここの仕組みが大変重要で、私たちが日常使っているパソコンやスマホのメモリーなどとはまったく違う仕組みになっています。
通帳は、じつは世界中でたくさん作られている
通帳(ブロックチェーン)は、世界で一つだけ、といいましたが、実のところをいうと、世界中で無数に作られています。
暗号資産は、どこかの政府の管理ではないので、技術的にはだれでも勝手に通帳を作ることができてしまうのです!
無数にある通帳から、正しい通帳が1つだけ選ばれる仕組みがある
通帳が勝手にどこでも作れるなら、お金としての信用なんてないじゃない! ということになるのですが、
ここからが大変興味深いところで、
無数にある通帳の中から、「唯一正しい通帳を選択して、そこに次の人が記帳する」という仕組みが用意されています。例えばビットコインの場合だと、「一番記帳数が多い通帳に、次の人が記帳する」という仕組みです。
唯一の正しい通帳を選ぶときは、特定の個人や政府などが関与することはありません。一定のルールに従って、外部からの干渉があったとしても、機械的に正しい通帳が選択されます。
暗号資産の通帳は、このように、特定の誰かが管理するのではなく、まるでインターネット上の自然の法則のように、つねに一つだけが真正なものと認識され、不正を防止する仕組みになっているのです。
また、このように、無数に通帳がある仕組みには決定的なメリットがあります。それは、一つの通帳がシステム障害や天変地異で失われても、その通帳の写しが無数にあるために、世界から通帳そのものは失われない、という点です。
このような特性が、ただのデータのかたまりにすぎないものが「通貨」となりうる可能性をもつ、大きな根拠となっています。
「ウォレット」には、暗号鍵が保存されている
さきほど少しウォレットの説明をしました。ウォレットは、通帳記入用の暗号カギをしまっておく場所です。
ウォレットには、通貨そのものが保存されているように見えますが、
実際にウォレットに入っているのは、「秘密鍵」といわれる、暗号の鍵だけです。銀行の印鑑のようなものですね。
ウォレットは、その秘密鍵を使って通帳にアクセスし、自分の鍵で開錠できる金額がいくらあるのかを表示する仕組みになっているのです。
暗号鍵が盗まれる=資産が盗まれるのと同じ
昨今話題になった「暗号資産の流出」というのは、この暗号鍵が不正アクセスによって盗まれることを意味しています。
暗号資産は、暗号鍵がすべてです。暗号鍵をなくしたらスペアはありません。
盗まれたら、取り戻してももう遅いのです。暗号鍵を手に入れた犯人は、その鍵の持ち主の全財産を一瞬にして犯人のものにすることができてしまうのです。
ホットウォレットとコールドウォレット
盗難防止のため、暗号鍵を「コールドウォレットで保管しましょう」ということが言われています。
ホット、とか、コールド、といっても、熱かったり冷たかったりするわけではありません。
■ホットウォレットの仲間
ホットウォレットとは、常時インターネットにつながっているものを使って、暗号鍵を管理する方法のことです。不正アクセスを防ぐ手段を講じる必要があります。
■コールドウォレットの仲間
コールドウォレットとは、ふだんはインターネットから物理的に切断されている方法で暗号鍵を保管する手段のことです。
ですから、手近なメモ帳に暗号鍵をボールペンで書いて厳重保管するのも、コールドウォレットです。
コールドウォレットも、USBなどでパソコンに接続している間は不正侵入のリスクにさらされますが、つなぎっぱなしのホットウォレットに比べればリスクは最小限になります。
最も安全なのは、「紙に書いて保管する」などの方法なのですが、これだと暗号鍵を毎回手で入力しないといけません。利便性と安全性のバランスをとって、USB接続タイプのコールドウォレットがよく利用されます。
それでも、ものすごく大きな金額を保管する場合には、紙に書く「ペーパーウォレット」が一番安全です。ただし、泥棒に盗まれたり、水にぬれたりするとアウトですが・・・
暗号資産を支える「公開鍵暗号」のしくみ
暗号資産のしくみを理解するうえで欠かせないのが、「公開鍵暗号」についての知識です。
ここでは、その仕組みを簡単に示してみたいと思います。
暗号なのに「鍵を公開」!?
暗号とはどういうものか? たとえば次のようなものです。
原文
こんにちは
暗号鍵
12345
暗号文
さいのなま
この暗号は、原文から暗号鍵にある数字の数だけ、五十音の上でずらした暗号です。
- こ……かきくけこ→さしすせそ 1個ずれている
- ん …… わをん→あ→いうえお 2個ずれている
- に …… なに → ぬ → ね → のはひふへほ 3個ずれている
- ち …… たち → つ → て → と → なにぬねの 4個ずれている
- は …… は → ひ → ふ → へ → ほ → まみむめも 5個ずれている
この暗号では、暗号鍵「12345」がバレてしまえば、だれにでも暗号が解読できてしまいます。
公開鍵暗号には、暗号鍵が「公開用」と「秘密用」2つある
これに対し、公開鍵暗号には鍵がふたつあります。
片方を「公開鍵」といい、片方を「秘密鍵」といいます。
公開鍵暗号の原理を非常~~に単純化すると、次のようなしくみになります。(ものすごく単純化しています。実際はもっと複雑な鍵生成が行われています。)
元の数字
1 2 3 4 5
公開鍵
1758509(1489✕1181)
秘密鍵
1489 1181
暗号化した数字
(公開鍵を使って特殊な計算により求められます)
送る人は、元の数字を公開鍵で暗号化する
情報を送ろうとする人は、公開されている 「公開鍵」1758509 を専用のシステムに入力して暗号化を行います。
このとき、特殊な計算がおこなわれ、公開鍵では開けることができず、秘密鍵があれば簡単に開けられるような暗号化が行われます。
受け取る人は、秘密鍵で元の数字に復号化する
秘密鍵を持っている人は、
1489 と 1181を使えば、簡単に元の数字を得ることができます。
秘密鍵を持っていない人は、
1758509が 何×何なのかを割り出す「因数分解」を行わなければなりません。
実際にやっていただくと分かりますが、これを割り出すのは並大抵の計算ではありません。 35、と言われれば、「5×7だ」とすぐにわかりますが、1758509と言われても、何×何なのか、容易には分からないのです。
実際の公開鍵暗号では、もっと複雑な、桁数も多く、文字も数字だけでなくアルファベットも交えた鍵が使われ、秘密鍵を割り出すためにスーパーコンピューターでも何万年もかかるような鍵が用いられます。
公開鍵暗号の安全性は、このように、公開された鍵から秘密鍵を割り出す計算の膨大さ、それが数学的には可能だとしても、現実的な時間と機材では実際には割に合わない、ということによって守られているのです。
将来、「量子コンピュータ」が実用化されたら、このような計算は瞬時に終わるであろうと言われています。そのときには、公開鍵暗号もより高度な、量子コンピュータを持ってしても計算が終わらないような暗号に変わっていくでしょう。すでにその作業は開始されています。
Googleが「ポスト量子暗号」をChromeの実験版に搭載、量子コンピュータへの備え | 日経XTECH
暗号資産(仮想通貨)は「資産」と言えるのか、安全なのか
この章では「暗号資産」の呼称を使いません
この章では、「暗号資産」と呼ばず、意図的に「ブロックチェーン」と呼んでいきます。
ブロックチェーンについての「投資話」は、相変わらず引けも切りません。果たしてこのような投資の話は、信じてよいのでしょうか。それとも、まゆつば、なのでしょうか。
貨幣は、他の商品と交換できる限りにおいて価値を持つ
貨幣の価値とは、他の有用な物と交換できる価値であり、交換できなければ価値はゼロです。
たとえ一万円札を100枚持っていても、クレジットカードしか使えない店に行けば、その場ではただの紙くずです。
ブロックチェーン がほんとうに価値を持ち、通貨として機能するかは、世界中のどれだけの商品を、その ブロックチェーン での取引によって購入できるか、にかかっています。
「貨幣の実物がないから ブロックチェーンに価値がない」というなら、紙幣やコインは「実物」と言える?
多くの方が、「お札や硬貨がないのに、暗号の貨幣なんて信じられない」という気持ちでいらっしゃると思います。 ブロックチェーン はずっと「仮想」通貨、と言われてきたのも、そのためです。
しかし、考えてみて下さい。私たちが毎日払っているお札は、ただ紙にインクをのせただけのものです。
こんな紙切れが、毎日何兆円も商品と交換され、価値をもつとみなされているのです。こちらのほうが、よほど「仮想通貨」ではないでしょうか?
ブロックチェーン は、お札やコインよりもよっぽど堅牢で失われにくいものです。
「政府が発行していないから価値がない」というのも、ちょっとおかしい
「ブロックチェーンは政府が発行していないから、貨幣とはみなせない」という議論もあります。
貨幣に価値を与えるのは、実際の社会的な交換が可能かどうか、ということです。
たとえ政府が発行した紙幣であっても、現地で政府の信用がないために、まったくの紙くずあつかいをうけ、ドル紙幣でなければ買い物ができない、といった例はいくらでもあります。
一方、どこの政府とも関係ないビットコインは、現在も大きな価値を持ち続けています。なぜビットコインは価値をもちえたか?
「どこの政府も発行しておらず、完全に独立した、誰も発行者がいない通貨だったから」ではないでしょうか?
ビットコインは、どこの政府も発行していない、インターネットで自由に国境を越えて流通するものだったからこそ、新しい時代の商取引に用いられました。小さな通販業者でも、ビットコインなら、信販会社と契約しなくても、特別な機器を買わなくても、世界中から支払いを受け付けることができました。
また、悪い意味でもあります。インターネットで秘密裏に受け渡しができることから、犯罪収益の移動、不正な支払い要求、資産隠しの目的でも大変な需要がありました。これは悪い使い方ですが、しかし事実としてビットコインの需要を押し上げました。
ビットコインは「政府が発行していないからこそ、実際に利用され、その結果として価値をもった」のです。
ただの紙切れでも、社会的交換が価値を与え貨幣にする
アメリカドルは、法律によって一定量の金と交換できた時代がありました。(金兌換制度)しかし、貨幣経済の進展の中、より多くのドルを発行したい思惑から金兌換は廃止され(ニクソンショック)、ドルは「紙切れそのものの姿のままで」世界で商品を購買するようになりました。
しかしそれでも、ドルを基軸通貨として維持しつづけたのは、ドル紙幣の紙の繊維に魔法がかかっていたからではありません。アメリカの経済力・軍事力を背景として、世界の多くの国がドルと引き換えならさまざまな商品を喜んで販売したからです。
ひとたび商品と交換できなくなれば、 ブロックチェーンどころか、たとえドルでさえも、紙くず、暗号くずとなります。それが貨幣というものです。
ブロックチェーンにおいても、これは同様だと言えるでしょう。
まるで価値があるように「錯覚」させ「億り人」を夢見させることができてしまう
現代の私たちは、貨幣に囲まれて暮らしていますので、ひとたび巧妙な手口によって「社会的に受け入れられていると錯覚」させられると、その暗号資産に価値があるかのような錯覚を起こしやすいのです。
「このブロックチェーンはみんなが使うんだ、新しい貨幣・暗号資産なんだ」と「思い込ませる」ことによって、現在は価値が無いにもかかわらず「価値があるから多額の投資に値する」と思い込ませることができるのです。
ブロックチェーンは、ただの「暗号で書かれた通帳」にすぎません。それに価値を与えるのは、実際の社会的な交換です。
あなたが買った「暗号資産」は、これから社会的に商品の購買に使われますか?
使われると言っているならば、その裏付けはしっかりとありますか?
裏付けがはっきりしないとすれば、それは、「通貨と名が付けば価値があるように感じてしまう」100%の錯覚の産物だと言えるでしょう。
これが、消費者庁も警告している「暗号資産(仮想通貨)のトラブル」のもとになっていると思います。
暗号資産(仮想通貨)に関するトラブルにご注意ください! | 消費者庁
「暗号資産」という呼び名もやはり、この錯覚に一役買っています。本章で「暗号資産」の呼称を使わないのは、この錯覚を除去した目で現実を直視したいためです。
実際にその「通貨」とやらが、社会的に使われるのか、見極めてください。
ただの「通帳の情報」に対して、大勢の人が貯金をはたいて「億り人」を夢見ています。
(おくりびと、わずかな投資から億のお金をかせぐことのたとえ)
ブロックチェーンが価値を持つ資産となるか、ただの電気信号の残りカスになるかは、とにかく、その ブロックチェーンによって何が買えるかにかかっています。
取引所に上場はしたけれどまったく取引が発生しない ブロックチェーンが無数にありますが、誰も生活の中でその暗号資産を使うことができないからです。
このような視点で、暗号資産への投資は慎重にご検討ください。
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