なぜ今回「同意しないとLINEが利用できない」となったのか
プライバシーポリシーを改定するときは、「変更された利用目的について、本人に通知し、又は公表しなければならない。」となっています。(個人情報保護法 第21条3項)
プライバシーポリシー本文では、変更手続きについて、つぎのように書かれています。
小さな変更があったときは、このページに「公表する」ということですが、「重要な変更」がある場合は、もしかしたら、今回のように再び、LINEアプリ上に通知が出て、同意を求められる可能性もあります。
LINEの収益力を強化するための、データ利活用を強化する改訂
LINEプライバシーポリシー改訂の内容を見ていきますと、個々のユーザーを識別したターゲティング広告や、研究目的、また生成AIの開発など、LINEの収益力を強化するための、個人情報の積極的な利用をめざすもの、という印象が強いです。
「無料で使えるサービス」は、大変便利で、ありがたいものですが、それが民営であるかぎり、無条件でいつまでも無料であることは、本来考えられません。
「個人情報を積極的に利用」と聞くと、大変気持ち悪く、同意したくない、という方も多いと思いますが、「個人情報の流出」とは異なり、個々人の名前や住所などは特定されない形での利用は、すでにサービス提供企業にとっては必須のものとなってきています。
「LINEを利用し続けるためには同意が必要」となったのは、こうした背景があるのです。
便利だが、収益力が弱い、LINEの特性
LINEのサービスは、主要な部分は無料で提供されています。国民的通信アプリ、と呼ばれるほど、その利用は広く広がっています。
しかし、トーク機能などは、「通信の秘密」の範囲内で、厳格にその内容が保護されるためもあり、利用がいくら増えてもLINE社の収益に結びつかないところがありました。
この点が、LINEが単独での運営を続けられず、Yahoo!との統合にいたった、主要な要因だろうと思います。
そこで、プライバシーポリシーに大きな変更を加えることで、多くの人に行きわたったLINE、という特性を生かした、収益化の向上を図ろう、という意図がある、と判断しています。
1.広告主などのパートナーからの広告配信などに利用する情報の取得・利用
A社が、買ったことがあるお客様だけにLINEやYahoo!の広告を出すときに、「どの人がA社のお客様か」を識別する情報の提供を受けます、ということです。
このとき、照合には、氏名とかメールアドレス、電話番号「そのもの」ではなくて、それらを暗号化(ハッシュ化)したものの提供を受けて、照合するんだそうです。
プライバシーポリシー本文で言うと、このあたりですね。
そのままのメールアドレスや名前で照合して、「ふむふむ、山田花子さんはこんなものを注文したのだな」という照合をされたのでは、キモくて怖いんですが
例えば、「メアドを暗号化して”awepmv54$”になる人が、LINEユーザーにもいて、同じ人だと判断できる。この人は、この商品を買った」というレベルで照合するという感じですね。
2.解析情報や統計情報の作成・提供
こちらは、1.よりもう少し複雑で、「LINEやヤフーで配信した広告を見た人が、実際に商品を買ったか」などの分析を行うという内容です。
プライバシーポリシー本文で言うと、このあたりになります。
LINEヤフーが持ってる個人情報を、そのまま、広告を出してるA社に提供するわけじゃなくて、
A社が暗号化した個人情報をLINEヤフーに提供して、分析を依頼する
LINEヤフーは、持ってる個人情報のどれかとマッチするかを確認して、マッチしたかどうかの結果をレポートにして、A社に提供する
という感じです。
いずれの情報も、「3.取得するパーソナルデータ」の章で、第三者から取得する場合はハッシュ化(暗号化)して取得することになってるので、照合も、ハッシュ化した状態で行われる、ということになります。
3.越境移転先の国・地域の明確化
以前、中国の委託業者がLINEユーザーの個人情報にアクセス可能だった、ということで問題になりました。
そのときのプライバシーポリシーでは、「当社のパーソナルデータの提供先には、お客様のお住まいの国以外の国または地域にある委託先、子会社、関連会社などの第三者を含みます」という、もやっとした形になっていて、それに「同意した」という形になっていたわけですが、
今回の新しいプライバシーポリシーで、「どの地域にはデータを移転することがある」というのを明確にしたということです。
プライバシーポリシー本文で言うと、このあたりになります。
なお関連して、「6.b.パーソナルデータの保管場所」には、このように書かれています。
データを保管する場所は、日本、アメリカおよび韓国のデータセンターだそうです。韓国に保管したことに懸念する声があったことを意識してか、その安全性が十分な認定を受けていることも記載されています。
なお、これらの対象地域が追加されるときは、プライバシーポリシーが修正されることになります。
4.識別子などの第三者提供
例えば、LINE公式アカウントに友だち追加すると、公式アカウント運営側からは、メッセージの一斉配信が行えるようになります。
また、LINE公式アカウントに一言話しかけた場合、公式アカウント運営側の「一対一トーク」画面にアカウント名が表示され、一対一でやりとりできるようになります。
こうした場合に、「LINEのこの人」と特定できる情報が、LINE公式アカウント運営者側に提供される、といったことですね。
プライバシーポリシー本文で言うと、このあたりになります。
この部分を、さきほどダウンロード可能なPDFとしてご提供した、新旧対照のほうで見ると、次のように結構変更されています。
LINE公式アカウント関係以外に、新たなサービス検討や、研究機関への提供などが追記されていることがわかります。
5.識別子の紐づけ
広告識別子、というのは、「広告配信にあたり、その端末を識別するためのID」といった意味合いです。本名とか住所はそこからは分からないんですが、「ある時点でこの商品を買った人と、いまLINEを開いている人は同じ人だ」といったことが分かるというわけです。
そこで、「この商品を買った人だから、この広告を流します」と言う処理をします、ということですね。よく、「さっき注文した商品の広告がいっぱい流れてくる」というようなことが起きますが、あのようなことです。
プライバシーポリシー本文で言うと、このあたりになります。
LINEとYahoo!が、ひとつの会社に統合するわけなので、これからは、Yahoo!は「パートナー」じゃなくて「当社」に含まれるわけですね。
なお、これにつづく「4.b.当社サービスの開発・改善の具体例」には、生成AIを開発するにあたっての学習に、個人情報を利用することも書かれています。これは、今回の改訂で追記されたものです。
・お客様の質問などの入力情報に応じて文章などを生成するサービスにおいて、新しい情報やコンテンツ(文章、画像、音声など)を生成するためのモデルの開発・改善を行う
LINEヤフープライバシーポリシーより
この生成AIの学習に使われるデータに、LINEのトークが含まれるか気になるところですが、一対一のトークの内容には、初期設定でLetter Sealingの暗号化が適用されますので、利用はできないと考えられます。
全体を通して
ここまで解説した、個人情報の利用は、LINE・Yahoo!のアカウントの連携を設定「しなくても」行われるものです。
そこで、LINEのサービスを利用し続けるためだけのために、この新しいプライバシーポリシーへの同意が必要になりました。
「それ以外の用途」におけるデータの連携は、アカウント連携を設定「した人だけ」行うのだそうです。アカウント連携を行うと、自分の意志で、「両方のサービスをわたし個人に紐づけて利用する」ことを選択することになります。
なお、たとえアカウント連携をしたとしても、LINEアプリでのトークの内容がYahoo!のサービスに使われることは「ありません」とはっきり書かれています。逆に、Yahoo!メールの内容がLINEのサービスに使われることもありません。
LINEの一対一トークは、「Letter Sealing」という暗号化によって、LINEの管理者にも読むことは出来ず、トークの当事者双方にしか読み取れない仕組みなので、ある意味当然のことだと思います。また、メール本文の内容も、憲法や電気通信事業法上の「通信の秘密」にあたると解釈されています。
以上、新しいプライバシーポリシーを読み解いてみました。追加でなにか分かりましたら、この項目を更新いたします。
コメント
懇切丁寧に解説、説明をしていただきまして有り難うございました。
どこかの段階で必ず「同意」確認の表示が出てくるから大丈夫…という説明は、まず安心できますし、とても有用だと思いました。
私の場合はiPhoneですがLINEのバージョンのアップデートをしていませんでしたので、設定の画面でaccount centerが表示されない段階から手順を進めました。
ところで今夜になって友人からLINEが使えないとレスキューの連絡が入りましたが、おそらくこれもLINEのバージョンが理由ではないかと思います。
友人はAndroidですので、これも解説頂いた手順を参考に、明日お助けに向かいたいと思います。
あらためて詳しい解説記事を書いてくださったキュリオステーション志木店、担当者様にお礼申し上げます。
コメントありがとうございます。細部までよく読んでいただいてありがたいです。
多くの方が 友人知人のサポートをされていて、そういう方に支えられてるなあと思います。
当方も、おおわく大丈夫だろうと考えて書き進めたわけですが、古いバージョンのアプリに対して LINE がどの程度 きちんと サポートを提供するか正直 読めないところもあります。10月中にポップアップする方と11月まで ポップアップしない方の違いも明確な説明はありません。そして悪いことに、LINE のお問い合わせフォームの回答が大きく滞っており、不必要な混乱の影響が出ています。
ご友人の方 うまく 復旧できますよう お祈りしております。
初めまして トレッキーと申します
10/31 目覚ましテレビでLINEの件
放送されて
後でーー としていたので
慌てました^ ^;;
詳しく説明されているサイトを
検索で こちらに辿り着きました
有益な情報をありがとうございます
その日 ボランティアで教えている
生徒さんと LINE友人に
さっそく教えました
こちらに辿り着けて 助かりました
コメントありがとうございます。お役に立てて良かったです!
当方には、26日のTBSの放送があった時点で、複数のご相談が入っておりました。皆さんたいへん慌てておられ、何事かと状況確認しましたが、その時点ではあまり詳しい情報がなかったのです。
しかし、はたと考えて、「そんなに多くの方がLINEを使えなくなるんだったら、LINEはつぶれてしまう。そんなやり方をするだろうか」と考え、「放置してても11月になったらきっと表示される」と書いた初稿を公開しました。
27日以降、順次、LINEヤフー社が、いろいろな追記をはじめて、やっぱりだいじょうぶだった、となったんですが
それでも31日にはご覧になった放送が流れまして… 携帯ショップなどにも、多くの方がご相談されていたようですね。